モットーは「楽しく仕事をしよう」。エプソン小川社長が語るコロナ禍での事業戦略

モットーは「楽しく仕事をしよう」。エプソン小川社長が語るコロナ禍での事業戦略

  • 沿って huawei
  • 16/07/2022

――2020年4月1日の社長就任は、まさに、新型コロナウイルスの感染が拡大しはじめるなかでの登板となりました。難しい舵取りからスタートしましたが。

小川氏(以下、敬称略) 2020年1月31日に、社長就任の発表会見を行なって以降、社長の職務に向けた準備を進めてきたのですが、そのなかで、新型コロナウイルスの感染が拡大し、海外出張がなくなり、お客様にもしっかりとご挨拶ができないまま、4月1日を迎えたという状況でした。

ただ、見方を変えれば、さまざまなことをじっくりと考える時間が取れたと前向きに捉えることもできます。

また、環境が変化したことで、多くのことを見直すきっかけにもなりました。これまで日常的にやってきたことが、実は無駄だったというものが出てきたり、工夫をしたり、改良をしたりといったことをしなくてはならないため、それによって仕事や意識、力のレベルを引き上げることができたものもあります。

海外の生産拠点で、新製品の生産を立ち上げるときに、直接エンジニアが出向いて、最終の詰めを行なうのですが、いまの状況では直接出向くことが難しい。

そのため、オンライン会議や電話を活用して、カバーするのですが、そうなると、生産現場が自ら何とかしなくてはいけないという要素が大きくなります。その結果、私が期待しているのは、生産現場の力が上がるということです。

振り返ってみると、2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染が広がったときも、それが終息した後の生産拠点は、一段レベルがあがったと感じました。新型コロナウイルスは、経営にとっては難局ですが、体質を強化するという点では、チャンスの側面もありました。

私は、社長就任以降、無駄なことを見つけて、それを改善してほしいと言おうと思っていたのですが、言わなくても、自然とそうした状況になっているのがいまの状況です。

――4月の入社式では、「守・破・離」という言葉を使っていたのが印象的でした。この言葉を使ったのはなぜでしょうか。

モットーは「楽しく仕事をしよう」。エプソン小川社長が語るコロナ禍での事業戦略

小川 「守・破・離」という言葉は、いまの時代だからこそ、重要であり、ぴったりとくる言葉だと言えるかもしれません。仕事というのは、まずは、基礎、基本を学び、それをしっかりと「守る」ことからはじまります。

その次のステップでは、もっと良い方法を考えトライする、すなわち基礎、基本を打ち「破る」ことに挑まなくては進歩がありません。先輩に言われたことだけをやっていては駄目です。

そして最後は、自分独自のやり方を進化、発展させ、先輩や上司から「離れる」、すなわち自立し、独立する段階です。これがまさに、人の成長、ということだと思います。

そのために、謙虚な姿勢で常に目的を意識しながら、一方で常識を疑う姿勢を忘れずにいてほしいと思います。これは、単に常識を疑うというのではなく、目的は何か、ということを常に考えて、常識を疑ってほしいという意味です。

いまは、正解がない世界に入ってきています。自分たちが考え方を変えないと、先に進めません。そんな世界で重要なのは、何のために活動をしているのか、なんのために仕事をしているのかという理由、すなわち目的です。

その目的と優先順位がはっきりしていれば、自ずと進む方向と進め方がわかってくると思います。難しい時代において、成長していくことは、楽しいことだと、私は思っているんです。

――これは、自らの経験がベースにあるのですか。

小川 若い頃に、イメージセンサーの部署で働いていました。大手電機メーカーに、イメージセンサーを供給する仕事だったのですが、これがあまりおもしろくなかった(笑)。自分で考えるネタというものもなくて、最終的に事業そのものも駄目になってしまいました。

その次に異動したのが、プロジェクタ事業でした。ここでは一転して、かなり勝手にやらせてもらいました(笑)。プロジェクタは草創期であり、技術も手探りで、正解がないわけですから、失敗しても何も言われない(笑)。

それでいて、自分たちが考えたものが業界のスタンダードになる。これまでの常識にとらわれず、正しいと思ったことをやるという経験をしたのです。言われたとおりにやるのではなく、自分が考えて、自分が成長できる。これも、イメージセンサーで仕事の基礎、基本を学び、それをベースにして、破壊し、離れて自立したかたちで、仕事ができたのです。

もともと学生時代から、常識が嫌いでした(笑)。常識を崩したい。だから、もっとも常識的な存在であるべき社長には、一番なりたくない、一番遠い存在でした(笑)。

私自身、築いてきた歴史や伝統を守りたいという気持ちはありません。どちらかというと壊したい。もちろん、すべてを壊すことは考えていませんが、そういう意識が強い。むしろ、そうした姿勢が、いまのエプソンに求められていると思っています。