画像は展示イメージです
横浜中華街にはお正月が2度やってきます。一度目は西暦で、二度目は旧暦です。このうち横浜中華街では、旧暦にあたる正月=「春節(しゅんせつ)」の方が盛り上がります。これは横浜だけでなく、神戸南京町や長崎新地中華街も同じです。
前回の記事はこちら。バイバイ、2021年! ハロー、2022年!!※過去の連載記事はこちら:横浜中華街流行通信~地元発のディープな街歩き~ 今年の春節は昨年同様に、たくさんの行事を中止にせざるを得ませんでしたが、新しい試みもしています。中華街から飛び出して横浜各地にランタンオブジェを設置し、春節祝賀とコロナ退散のW祈願の意味合いを込めて獅子舞がそれぞれのエリアを予告なしで神事としてまわりました。
ほんの10分間くらいでしたが、駅の構内や施設での獅子舞を見ていたら、こうした伝統を長い間絶えることなく継承してきた我が街のことを改めて誇らしいな、と感じました(各施設との調整や演舞場所や移動ルートの調整など、めちゃめちゃ大変だったー!!)。
ところでみなさん、餃子は好きですか? 僕は大好きです。逆に餃子が苦手だという人にこれまで会ったことがありません。お店や家庭によっても味付けが違いますよね。僕は白菜とかキャベツとか葉野菜が入ったものが好きです。
本場は中国なのでしょうけど、考えてみるとロシアのペリメニとかインドのサモサとかイタリアのラビオリとか、小麦の生地で肉を包む料理って世界中にはたくさんありますよね。メキシコのエンチラーダとかも近いかも。
それぞれが国民的料理のひとつになっていますから、大人も子供も世界中みんな餃子が大好きだということなんですよね。餃子は世界平和のメニューといえるかもしれません(雑なまとめ… ^^;)。
ご存じの方も多いと思いますが、横浜中華街では春節期間のこの時期、特に頻繁に餃子を食べます。「正月料理」のひとつだからです。普段メニューとして出してないお店でもまかないで作ってスタッフや家族で食べたりします。日本では大晦日に年越し蕎麦(関西はうどん?)を食べますが、中国では年の瀬に「年越し餃子」を食べるんです。中国では小麦が採れる寒い地方では特にそうした風習が今でも残っています。
なんで餃子をお正月に食べるのかというと、中国の古銭に形が似ているからとか、文字通り「子(ね)」の刻に「交」わる時に「食」べるもの、とか諸説あります。どれが正解なのかはわかりませんが、餃子を食べる風習、そのものがきっと中国本土になじむものだったんだろうな、というのが僕の持論です。
というのも大晦日の餃子には特別な思い出があるんです。横浜中華街で商売を始めてまだ1~2年のころ。この街で知人や家族がいない僕たちを、とある料理店のオーナーさんがご自宅に呼んでくださいました。
夕方、店を閉めてからそのお家に向かうと、子供たちも大人たちも一緒になってみんなが餃子を作っているんです。皮からこねて麺棒で伸ばしたり、ニラや野菜を刻んだり、大きなボウルで肉と混ぜたり… を家族総出で手際よく行なっています。手を動かしながら、新しい旬のメニューのことや売上のこと、子育てのことなどの話しをしています。作っている間にも続々と親族がそれぞれ仕事を終えて集まって来て、その作業に加わります。
その後に大皿に盛り付けられた水餃子が丸テーブルの真ん中に置かれました。家長が新年の挨拶を簡単に述べ、「新年快楽!」と言うと、それを合図に「おめでとう!!」「新年好!」などと口々に言いながら一斉に箸をつけます!! 熱々の餃子をものともせず、子供も大人も笑いながら、次々どんどん食べて口に運んで行きます。
「当たった!」「やった!」という声が上がり始めます。
さらに次々と箸が餃子に向い、あっという間に皿がカラになりました。実は餃子はおみくじになっていて、餃子の中にはそれぞれ綺麗に洗って消毒された小銭がたまにまぎれて入っているんです。1円玉=100円、5円玉=500円、10円玉=1000円、100円玉=1万円、といった倍率だったと思います。それがその年のお年玉になるわけです。おもしろいのが、大人も一緒になってやるということです。
僕たちは周りの箸の動きに圧倒されて数個しか手をつけられず、家族でもないのに「当たっちゃったらどうしよう…」と心配だったのを覚えています。幸い!? にも、すべてハズレだったのですが、「そんなんじゃこの街で生き残っていけないよ」「遠慮なんかしちゃダメだよ」って言われた時に、街に仲間として受け入れられた気がしました。
この一連の流れには、さまざまな華僑の教えが詰まっているなと感じました。まず家族みんなで餃子を作り、食育を自然に行なっていること。その作業を通じて、たまにしか会わない親族ともコミュニケーションが取れていくこと。そして何よりもその年のお年玉の金額が「○歳(○年生)だから○○円」とか一律ではないこと。たくさん食べた人が運をつかむ確率が上がるということ。食を通じてビジネスのことまで教えるのかと、華僑のたくましさや奥深さを感じました。
今では小銭の代わりにピーナッツを入れて、その個数によって金額を変えたりしているんだとか。当たった小銭を引き換え、家長から紅包(ホンパオ・赤い色のポチ袋)にお年玉を入れられて配られます。そして楽しい宴が夜更けまで続きます。
さてさて、横浜中華街ではそんな「紅包くじ」という福引のイベントを今年から始めました。ホテルの宿泊券や旅行券、各店自慢の食事券やスポンサーさんから協賛していただいた豪華景品などが当たります。
横浜中華街東門近くの「ChinaTown80」にて、1枚300円(税込)でお買い求めいただけるほか、横浜各地に置かれた上記ランタンを周遊していただき、デジタルスタンプラリーに参加していただいても引き換えの権利を取得できます。2月14日までの実施です。
詳しくはこちらをご覧ください。
さて、恒例の #ボスメシ はやっぱり水餃子です。
手作り水餃子は「菜香(さいこう)新館」や「山東(さんとん)」、「馬(まー)さんのお店」が有名ですが、ほかにもおいしいお店がたくさんあります。変わりどころだと、「東北人家(とうほくじんか)」のラム肉餃子なんかも大好きです。
どこもおいしくて甲乙つけ難いので、今回はあえて横浜中華街にある「業務スーパー」で売られている「水餃子」をご紹介したいと思います。
これは皮もモッチモチ、肉汁がたっぷりで、「手作り」って言われて出されても、うっかり信じちゃうくらいおいしいです。
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文/石河 陽一郎
いしかわ よういちろう。1972年生まれ。株式会社ロウロウ・ジャパン代表取締役・総合プロデューサー。横浜中華街発展会協同組合専務理事。茅ヶ崎出身、横浜市在住。幼少期をシンガポールで過ごす。趣味はシステマ、焚き火。