1インチの撮像素子にライカとの協業によるカメラシステムを搭載したシャープのスマートフォン「」が5月17日に発表された。1インチセンサーというスペックだけを聞くと、いわゆる“高級コンパクトデジカメ”を連想するが、5G通信にも対応したれっきとしたスマートフォンである。あの名機「パナソニックLUMIX DMC-CM1」をも彷彿とさせるスペックで、期待度は高い。発売は6月中旬以降、NTTドコモとソフトバンクから登場する。
ライカとスマートフォンメーカーの協業は初めてではない。2014年11月に海外で発売されたLUMIX CM1は、どちらかといえばデジタルカメラのLUMIXにスマートフォン機能を搭載したもの、という位置づけで、ここで搭載された「LEICA DC ELMARIT」のレンズも、ライカとパナソニックがデジタルカメラで協業している流れを汲むものだ。
と、“1型センサー×ライカレンズ”の先輩であるLUMIX CM1(右)。CM1はデジカメ寄りなので横にして構えるのが基本それに対し、純粋なスマートフォンメーカーと協業とした例としては、2016年6月に国内で発売された中国ファーウェイのスマートフォン「HUAWEI P9」が最初だろう。モノクロセンサーを含むデュアルカメラ構成で、ライカの名に恥じない高画質として知られた。搭載されたレンズは「SUMMARIT H 1:2.2/27 ASPH」。ファーウェイはその後もライカと協業したカメラを備えるスマートフォンを投入し、カメラに関しては頭一つ抜け出した存在感になっていった。
そして、続いてライカと協業したのが今回のシャープだ。シャープのスマートフォンは、リコーGRと協業したこともあったが、トータルとしてはカメラがあまりパッとしない印象ではあった。そんなシャープは、海外進出を本格化する中で、スマートフォンの差別化要因として重要なカメラ機能をさらに強化すべく、ライカとの協業を選択した。
シャープ内では、カメラ画質向上に向けて1インチセンサーの採用を検討している中、ライカとの話し合いが始まったのだという。それが2019年。2020年2~3月には本格的なプロジェクトが開始され、1インチセンサーの正式採用が決定したという。
前モデル比で約5倍の面積という大型の1インチセンサーを採用。有効画素数は約2,020万画素レンズの下に置かれているのが1インチセンサー。レンズの下にこの大型サイズのセンサーが搭載されているセンサーサイズが大型化すると、同じ画角を得るための焦点距離が長くなり、レンズも大きくなる。するとスマートフォンへ内蔵するにはどうしても分厚くなってしまう。LUMIX CM1では沈胴式レンズを採用することで対処していたが、では一般的なスマートフォンとして耐衝撃性能や防水性能、デザインを維持するために、沈胴機構を持たないスタイルにこだわった。
レンズは7枚構成。前モデルは6枚構成だった内部写真。ぎゅっとレンズを詰め込んだ。下がセンサー側参考:とLUMIX CM1(※社外品のフジツボ型フードを装着)の比較。LUMIX CM1はレンズが大きく、沈胴式のため、同じ1インチと考えれば、は大幅に薄型化しているその結果、厚みを抑えながら必要な焦点距離を確保する設計に苦労したという。しかもライカによる厳しい画質評価もクリアする必要がある。多くのシミュレーションを重ねて両者で協議していった結果、7枚構成のレンズユニットを開発。画質とサイズのバランスからF1.9が最適としてライカの基準もクリアし、「SUMMICRON」(ズミクロン)銘の認証を受けた。レンズ名は「SUMMICRON 1:1.9/19 ASPH.」で、従来機AQUOS R5G比では、サジタル方向のMTF値で解像性能が15%向上しているという。
の開発では、コロナ禍の中、シミュレーションなどのデータをライカに送ってライカ側が検証し、設計のアドバイスや評価を受け取って改善する、といった作業を繰り返し、「従来やらなかったレベルのシミュレーションや画質調整を繰り返した」と同社では苦労を語る。どうやら、ライカ側もファーウェイとの協業でスマートフォンカメラの設計ノウハウが蓄積されていたようで、その知見にはシャープ側が驚くほどだったという。
と、ライカの代表機種「ライカM10」(右)ちなみにファーウェイ端末のようにカメラ機能のUI(フォント)はライカに似せていない。ただ、もともとAQUOSスマートフォンのシャッター音は、ライカのシャッター音にインスパイアされたものらしい。そうして1インチセンサーとSUMMICRONレンズによるカメラユニットが開発されたが、本機では最新スマートフォンカメラで一般的な、複数のカメラを併用するマルチカメラシステムは採用されていない。その理由は「ユーザーによる8割〜9割の撮影は、ほぼ標準のカメラで行われている」(同社)からで、そのメインカメラで“突き抜けた性能”を実現するために1インチセンサーを採用した。
マルチカメラではないため画角を切り替えることはできないが、デジタルズームによって対処している。レンズ自体の画角は35mm判換算19mm相当の超広角レンズだが、メインはクロップとデジタル処理によって24mm相当とした。単純にクロップだけだと記録画素数が減少してしまうためで、画角によって画素数が変わるとユーザーが混乱する、という考えから、メインとしている24mm記録時もデジタル処理によって2,000万画素で記録しているそうだ。その後、3倍以上にズームすると、記録時に自動的に超解像処理が行われて画質の劣化を抑えるという。最大倍率は6倍(152mm相当)に設定されている。
実際に(試作機)で撮影した画像。これは超広角の19mm相当。ちなみにこのジオラマは、ウルトラマンで実際に使われたものを借りてきたらしいこちらはメインとなる24mm相当。実際はデジタルズームだが、画質の劣化は最小限。なお、本稿の実写画像は試作機によるもので、製品版とは画質が異なる可能性がある3倍相当のデジタルズームで撮影(72mm相当)デジタルズームの望遠端となる6倍で撮影(152mm相当のウルトラレゾリューションズーム)センサーは、1インチ有効2,020万画素というスペックで、高画質志向のズームコンパクトカメラと同様。ただし、センサーメーカーは非公表。デュアルピクセルAFや像面位相差AFは搭載せず、基本的にはコントラストAFとなる。代わりにiToFカメラを搭載したことでレーザーAFによって高速なピント合わせが可能となっており、暗所でもAFが動作する点はメリット。遠距離はコントラストAFのみになるが、実用上はそれほど問題ないだろう。
暗い中にを設置。真っ暗に見えるが、レーザーAFが右のように被写体を認識しているナイトモードのテスト。見た目通りの露出になるように撮影しており、実際に真っ暗闇の状態。左に、右にAQUOS R5Gが設置してある。の方はこの時点で被写体が浮かび上がっている撮影すると、左のではここまで明るく写る実際に撮影してみると、AFスピードは他社製品ほど速くなく、光学式の手ブレ補正がないため、手ブレしやすい点も気にかかった点。ただし、いずれもまだ試作機によるもので、画質面を含めてまだチューニング中ということで、今後に期待したい。
近年一般的なスマートフォンでは、被写体や背景までの距離を測って演算することでデジタル的にボケを作れるが、は大型センサーと明るいレンズで光学的にボケを得ている。そのため、デジタル処理で作り出すボケが苦手とする、ストローや髪の毛のような細い部分も自然なボケとなる1インチという大型センサーは、同社の従来機AQUOS R5G比で面積が約5倍。その分、ピクセルサイズも大きいため、ダイナミックレンジは広くなり、暗所ノイズは40%低減されているという。他社では、高解像度なセンサーを使って、複数の画素をひとつにまとめて疑似的にピクセルサイズを大型化する技術も使われているが、それには新たな回路が必要になり、ピクセル間のすき間も画質低下に繋がるなど、課題も多い。それに対して物理的に大きなセンサーは、単純に画質で有利なのだという。
チップセットはQualcommのSnapdragon 888を採用し、スマートフォンカメラらしい様々なデジタル処理も駆使して、連写合成によるスーパーナイトモードや、被写体認識によって最適な撮影設定にするAIオート、マルチフレームノイズリダクションなどの機能も搭載。コンピュテーショナルフォトグラフィーによる高画質化も行っているそうだ。そんな高級コンパクトデジカメにも匹敵するスペックをスマートフォンのサイズに詰め込んだ。今回は試作機かつリアルフィールドでの実写が叶わなかったため、この本当の実力を見るのが楽しみだ。