「Apple Music」で待望の「空間オーディオ」「ロスレス」「ハイレゾ・ロスレス」音源の配信が開始された。
本稿ではApple Musicでハイレゾ音楽を楽しむ方法の一例を紹介する。ただし、記事をシンプルにするために本稿では再生にiPhone/iPad(ここでは手持ちのiPhone 12 Pro/iOS 14.6)を使った場合を例にとる。また、空間オーディオではなくApple Musicで配信中のハイレゾ音源(アップルの表現ではハイレゾ・ロスレス)の再生について記述していく。
ポータブル再生の場合、iPhone/iPad以外で再生に必要なものは、USB DACとイヤホンだ。Bluetooth接続はロスレスの伝送ではなく、iPhone/iPadで一度PCMにデコードし、AACなどに再圧縮したのち伝送するため、ハイレゾ音源を最大限に楽しむためには有線接続で、なるべくハイクラスのイヤホン/ヘッドホンの利用が望ましい。ただし、(高音質の目安にしてもいいが)ハイレゾロゴの付いたイヤホンである必要は必ずしもない。ここでは解像力が高く、細かな音を聴くのに適しているCampfire Audioの新製品「ARA」を使用した。
Luxury & Precisionの「W2」とCampfire Audioの「ARA」。
ハイレゾ・ロスレスの再生には、ハイレゾ対応のUSB DAC(最大192kHz/24bitの信号を通すDAC)が必須である。以前紹介した「Acoustune AS2000」のようにMFi認証を通した製品は48kHzの信号が上限となるので、Apple Musicの「ロスレス」(最大48kHz/24bit)を聞くには十分だが、「ハイレゾ・ロスレス」品質の再生にはならない。
なお、国内(JEITA)の定義では、CDを超える品質の音源をハイレゾとしている。つまり、日本では48kHz/24bitのロスレス音源をハイレゾとみなす場合があるが、Apple Musicでは48kHz/24bitまでのロスレス音源は「ロスレス」と扱い、それを超えるサンプリングレート(最大192kHz)のロスレス音源を「ハイレゾ・ロスレス」と呼称している。本稿ではApple Musicの定義に沿うことにする。
USB DACは使用用途に応じて様々な大きさや形のものがある。ハイレゾ対応のUSB DACでiPhoneと組み合わせるのに都合がよく高性能な製品を選ぶならLuxury & Precisionの「W2」がお勧めだ。W2はいわゆるドングル型・スティック型と呼ばれるもので、DAC機能を内蔵したヘッドホンアンプだ。PCにも接続できるが、バスパワー動作が可能でコンパクトなのでスマホとの接続に適している。
Lightningケーブルが付属する。
さらに、Lightning ー USBカメラアダプターを介さず、標準添付のケーブルでiPhoneに直結できる点は、iPhoneやUSB Type-CではなくLightning端子を装備した古い世代のiPadに好適だ。
W2はAstell & Kern「SR15」やiBasso「DX300」などが採用しているようなハイクラスのDAC ICをデュアルで搭載している。また、通常の3.5mm端子のほかにバランス駆動対応の4.4mm端子も採用し、特にバランス駆動時の音質には目を見張るものがある。価格はやや高いが、その価値はある製品だ。
W2は液晶画面で入力サンプリングレートの確認ができるため、実際に何kHzの信号がDACに届いているかが分かる。PCオーディオでは、信号経路でハイレゾではない品質にサンプリングレートやビット数を落として処理する場合があり、せっかく192kHzのハイレゾ音源を用意したのに、実際には48kHzまでしか出ていなかったということがよく起こる。この記事でもこの機能を用いて再生品質の確認をしている。
Apple Musicのハイレゾ・ロスレス音源を楽しむためには、Apple Musicに契約する必要がある。そのうえで「設定」から「ミュージック」を開く。「オーディオ」の中にある「ドルビーアトモス」と「オーディオの品質」が新たに追加された項目だ。
このオーディオの品質で「ロスレスオーディオ」の項目をオンにし、さらにその下の「モバイル通信ストリーミング」「WiFiストリーミング」「ダウンロード」の各項目で「ハイレゾ・ロスレス」を選択しないとハイレゾ再生にならない。つまり、上位のロスレスオーディオのみをオンにした状態では、48kHzまでの再生になるので注意が必要だ。
設定を変更した際に「外部ハードウエアの使用を推奨」というアラートが表示されるが、このためにUSB DACを接続しているので「続ける」を選べばいい。ハイレゾ・ロスレス音源はかなりの容量を消費するので、モバイル通信時にハイレゾ・ロスレスの品質で再生するかどうかは、よく考えねばならない。
この状態でハイレゾ・ロスレスの楽曲を再生すれば、ハイレゾ品質で音楽を楽しむことができる。W2では192kHzや96kHzなど、48kHzより上の数値が表示されていれば正しくハイレゾが再生されていることになる。
再生中の画面
イギリスを代表する現代音楽家マイケル・ナイマンが作曲した映画『ピアノレッスン』のサントラをアレンジした楽曲を聴いた。Apple Musicでは192kHzのハイレゾ・ロスレス音源として提供されている。そのことがW2の液晶画面から確認できる。ちなみに24bitではなく32bitの表示になっているのは、楽曲ではなくUSB DAC側の都合によるものだ。
再生音は「ロスレス」の48kHzでも素晴らしいが、「ハイレゾ・ロスレス」の192kHzにすると美しい楽曲が一層感動的なものになる。細かな音の情報量が増え、音楽全体がさらに豊かさを増す。聴きながら途中で「ロスレス」の設定に戻すと、やや音が軽く(薄く)なったように感じられるだろう。高性能なUSB DAC内蔵ヘッドホンアンプLuxuary & Presision W2の能力と相まって、素晴らしいサウンドが味わえ、スマホのポータブルアンプで再生されているとは信じ難いレベルの音質だ。
新しい魅力を加えたApple Musicをぜひ楽しんでもらいたい。
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