米国が中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)への規制強化を発表した2020年5月以降、同社に対する逆風が世界で強まっている。ファーウェイ採用を容認してきた英国などで一転して排除の声が高まっているからだ。通信機器市場ではファーウェイの置き換えを狙った競争が激しくなってきた。足元ではスウェーデンの通信機器大手エリクソン(Ericsson)が漁夫の利を得るが、NECなどに参入の好機がやってくるかもしれない。
ファーウェイ容認の方針を示してきた英国が揺れている。英国家サイバーセキュリティーセンター(NCSC)は20年5月中旬、ファーウェイ製品の安全性を再評価する方針を明らかにした。英国は20年1月、ファーウェイ製品の5G(第5世代移動通信システム)ネットワークへの採用について、コアネットワークを除き基地局など最大35%の市場占有率に限って採用を容認する方針を示していた。英現地メディアは、「英政府は23年までにファーウェイを5Gから完全排除する可能性も検討している」と報じている。英国はファーウェイ容認から一転、排除に向けた声が高まりつつある。
世界でファーウェイに対する逆風が強まっている(撮影:日経クロステック)カナダやドイツでもファーウェイを置き換える動きが目立ってきた。カナダの大手通信事業者であるテラス・コーポレーション(Telus Corporation)とBCEは20年6月、5G基地局に当面ファーウェイ製品を採用しない方針を明らかにした。両社は4Gネットワークでファーウェイ製品を採用している。テラスは5G向けにエリクソンとフィンランドのノキア(Nokia)の製品を採用する。BCEはエリクソンを採用する方針だ。カナダ政府は、これまでファーウェイ製品採用の可否について、明確な方針を示していなかった。
ドイツ大手通信事業者テレフォニカ・ジャーマニー(Telefonica Germany)も20年6月、5Gコアネットワーク(5GC)にエリクソンの機器を採用することを明らかにした。同社はファーウェイ製品を既存のコアネットワーク設備に採用している。
ファーウェイへの逆風の強まりは、米国の追加制裁が引き金になっている。
米商務省は20年5月、ファーウェイを名指しした規制強化の方針を公表した。19年5月に発動した同社に対する事実上の禁輸措置の「抜け穴」をふさぎ、米国外で製造した半導体であっても米国製の製造装置を使っていれば輸出できないようにする。これまでは米国由来の技術やソフトウエアが25%以下であれば規制の対象外となっていた。
米国の狙いは、ファーウェイが半導体製造で頼ってきた台湾の半導体受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)との取引を断つこととみられる。TSMCが米国製の半導体製造装置を使っていれば、今回の規制強化でファーウェイと取引できなくなる。ファーウェイは半導体の内製化に力を入れているものの、生産についてはTSMCなどファウンドリー(半導体生産受託)に多くを頼っている。TSMCとの取引が停止した場合、ファーウェイは5G基地局などの生産に影響が出るおそれがあり、今回の追加制裁の影響は大きい。
英調査会社オムディアによる19年の携帯インフラの売上高シェア。カッコ内は前年からのシェア増減(出所:英オムディア)ファーウェイは19年を通して、米国の圧力にもかかわらず携帯インフラ市場で強さを維持した。英調査会社オムディア(Omdia、旧IHSマークイット)によると、19年の基地局など携帯インフラの売上高シェアで、ファーウェイは30.8%となり首位を守った。2位のエリクソンが2.2ポイント、3位のノキアが2ポイントシェアを落とす中、ファーウェイは0.1ポイント落とすのにとどまっている。
19年時点で米国のファーウェイ排除要請に事実上動いたのはオーストラリア、日本、台湾、ベトナム程度だ。世界の多くの国がファーウェイ排除に動かなかった理由は、初期段階の5G仕様はNSA(ノンスタンドアロン)と呼ばれ、5G単独では動作せず、4Gネットワークとの連携が必須になる点が大きい。4Gと5Gが同一のベンダーの機器でなければ動作が難しいため、4Gネットワークで高いシェアを誇るファーウェイの排除が実際には困難だったからだ。
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