半導体不足の影響を受けて正規ルートで買えなかった電子機器メーカーが非正規ルートで購入した結果、不正品をつかまされる被害が相次いでいる。真贋(しんがん)判定を手掛ける企業に持ち込まれた半導体のうち約3割が不正品だった。それでも背に腹は代えられないと危険を冒すほど、今の半導体不足は深刻だ。
5月、電子機器メーカーが集積する中国・深圳。電子機器受託製造サービス(EMS)企業JENESISの藤岡淳一最高経営責任者(CEO)は背筋が凍る思いをした。
工場に届いたばかりのマイコン(電子機器を制御する半導体)に電源が入らない。よく見るとパッケージの寸法も微妙に違うようだ。専門家に調査してもらったところ、メーカー名こそ本物そっくりだが、中身は求めていた仕様の品種とはまったく異なることが分かった。
マイコンの代金の支払いは既に済ませていた。急いで調達先に問い合わせたが、後の祭り。何度連絡してもなしのつぶてだった。
JENESISがこのマイコンを購入したのは、中国アリババ集団が運営する通販サイトだった。半導体不足のあおりを受け、いつものルートではマイコンの購入がどうしてもできなかったからだ。やむなく通販を選んだが、それが裏目に出た。
解消の兆しが見えない半導体不足を背景に、半導体の「流通在庫品」の引き合いが増えている。半導体メーカーや正規代理店以外から調達する、メーカー保証のない商品だ。いつから、どこで、どのように保管されていたのかは定かではない。そこにニセモノ半導体が紛れ込むケースが増えているという。
ニセモノ半導体には幾つかのパターンがある。廃棄した機器から取り出した半導体を新品として売り出したり、本来なら廃棄すべき規格外の不良品を販売したり。半導体のパッケージに刻まれたメーカー名や型番を書き換えて販売するといった悪質な例もある。
こうした問題に対処しようとOKI子会社のOKIエンジニアリング(東京・練馬)が始めたのが、半導体の真贋判定サービスだ。
地下鉄氷川台駅近くの住宅街の一角。同社の3階には次々と疑惑の半導体デバイスが持ち込まれる。電子顕微鏡を使った外観検査、X線検査装置による内部構造の解析……。20人近くの技術者が入れ代わり立ち代わり、十数台の装置を使って「白黒判定」している。
チップを保護するパッケージの樹脂をレーザーや溶剤で溶かしてチップを丸裸にすることもある。半導体のシリコンチップに刻まれたメーカーのロゴマークや配線パターン、チップと極細のワイヤの接合状態などを調べるためだ。
OKIエンジニアリングの橋本雅明社長は「半導体デバイスを組み込んだ後に検査をして不正品と分かるようでは遅い。事前に検査して不具合の芽を摘んでおきたい機器メーカーは多い」と話す。
6月にサービスを始めたところ、8月までに150件ほどの問い合わせがあった。産業機械や医療機器の関連メーカーが多いという。このうち70件ほどを調査したところ、3割ほどが不正品だった。
一般的な半導体パッケージには、実装機が半導体の向きを判定できるように丸いマークが刻まれている。そのマークの位置が異なっていたり、パッケージ内部のリードフレーム(シリコンチップとプリント配線板を接続する極薄の金属部品)の構造が異なっていたりするケースがある。パッケージの上面に刻印する数字を書き換えて製造年月を偽る事業者もいるという。
小さな半導体1個が足りないだけで機器を出荷できずに困っているメーカーもある。このためOKIエンジニアリングは「性能が同じなら非正規ルートでの購入でも構わないという顧客向けに、半導体の機能や信頼性を確認する試験もしている」(信頼性ソリューション事業部の高森圭事業部長)。
6月に正式サービスを始める前から、OKIエンジニアリングは個別の依頼を受けて真贋判定をしていた。問い合わせが増えたのは2020年秋だ。
米国の技術を使う半導体を中国・華為技術(ファーウェイ)に輸出することを全面的に禁じる規制を米商務省が発効したのが20年9月だった。ファーウェイが世界中から半導体をかき集めた結果、正規ルートの供給がしぼみ、不正品が横行する温床になった可能性がある。
米中対立だけではない。パソコン人気や自動車の電動化、高速通信規格「5G」などによる半導体需要の拡大に供給が追い付かない状況も、ニセモノ半導体の流通に拍車をかけている。
「半導体不足の解消は23年ごろになる」(台湾積体電路製造=TSMC)との見方が強まる中、製造業では焦燥感が高まる。待てど暮らせど半導体を入手できないメーカーは非正規品に手を出したくなるかもしれない。ただし、手痛いしっぺ返しを受けないためにも真贋をきっちり見極めておく必要がある。
(日経ビジネス 上阪欣史)
[日経ビジネス電子版 2021年9月8日の記事を再構成]