破壊的イノベーターになるための7つのステップ(その1) - しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方(玉田 俊平太さんコラム - 第4回)

破壊的イノベーターになるための7つのステップ(その1) - しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方(玉田 俊平太さんコラム - 第4回)

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  • 05/03/2023

前回、私たちは、破壊的イノベーションとは、既存大企業から見ると「自社の既存製品の主要顧客が重視する性能が、少なくとも一時的には低下する」タイプのイノベーションであり、既存大企業のお得意さんに見せると、彼らが求める性能が不足しているため

「そんなのオモチャだ、ウチは要らない」

と言われてしまうことを学びました。そして、大手企業には、「合理的意思決定メカニズム」が整備されているため、お得意さんが求めない破壊的なアイデアは却下されて、破壊的イノベーションに取り組む意思決定ができないことも学びました。

そして、小さな企業が大きく成長するためには、大企業が入ってこなかったり、道を譲ったりするような特性を持つ「破壊的な新製品や新サービスを創り出す」ことが必要不可欠だということを理解しました。

今回からは、破壊的イノベーションの特性を理解した私たちが、実際に破壊的イノベーションが起こせる真のイノベーターになるにはどうしたら良いかを、ステップ・バイ・ステップで学んでいきましょう。

イノベーション、すなわち、新しい製品やサービスを多くの顧客に届けるやり方には、大きく分けて3つあります。それが、1つの「王道」と2つの「覇道」です。

「王道」を広辞苑で引くと、「(1)古代の王者が履行した人徳を本とする政道、(2)最も正当な道・方法」とあります。イノベーション・マネジメントにおける「王道」と言えば、既存の顧客がより一層満足し、喜んで高い値段で買ってくれるような、これまでよりも良い性能の製品やサービスを提供する「持続的イノベーション」がそれに当たるでしょう。

図1 王道

資料:執筆者作成

しかし、一見、一番楽そうに見えるこの道が、実は一番競争が激しく、困難な道なのです。

以前、円高などによる不況に喘いでいた鉄鋼メーカーが、次の「産業のコメ」と言われ、大きな市場が予測されていた半導体産業に競うように進出したことがあります。

当時の官公庁が発行した白書などでも、将来の情報通信産業は市場の拡大が予想されており、それを支える基幹部品である半導体産業に進出することは、合理的な「王道」の経営判断に見えました。だからこそ、合理的判断を重んじる鉄鋼メーカー社内の稟議もパスし、半導体産業進出への決裁が下りたのでしょう。

それではこの半導体産業への進出、結果はどうだったのでしょうか?

進出した先に拡がっていたのは、未開の沃野(よくや)であるブルー・オーシャンだったのでしょうか?

残念ながら、そうではありませんでした。

鉄鋼メーカーが半導体に進出した当時、半導体の市場に君臨していたのは、世界最強の競争力を誇っていた日本企業たちでした(下表参照)。

表 世界の半導体メーカー売上高トップ10(1990年)

順位企業名
1NEC セミコンダクターズ
2東芝セミコンダクター
3モトローラ 半導体部門
4日立 セミコンダクターズ
5インテル
6富士通 セミコンダクターズ
7テキサス・インスツルメンツ
8三菱電機 セミコンダクターズ
9フィリップス セミコンダクターズ
10松下電器 セミコンダクターズ

資料:「Wikipedia」をもとに執筆者作成

生まれて間もない鉄鋼メーカーの半導体部門は知ってか知らずか、少しでも研究開発や設備投資の手を緩めるとあっと言う間に置いていかれる苛烈な競争の真っ只中に飛び込んでしまったのです。当然、彼らは歓迎されるどころか、既存半導体メーカーに思いっきりグーで殴られました。

誰の目にも成長が期待されていた半導体市場は、誰もが参入を目指し、既存ビッグ・プレーヤーたちが血で血を洗う、地獄のレッド・オーシャンだったのです。

クリステンセン教授も「実績ある競合企業(持続的イノベーター)に魅力的に映るような顧客や市場をターゲットとする戦略は、自社にとっては新規事業であっても、勝ち目は薄い」と述べています。ですから、一見「王道」に見え、誰もが目指す「持続的イノベーション」は、実は経営資源をより多く持ち、それをいち早く投入した企業が勝つ、冷酷非情な弱肉強食の道なのです。

さて、誰もが行くべき王道に見えた「持続的イノベーションの戦略」が、実は優勝劣敗の厳しい道だとすれば、他の戦略として考えられるのはどのような道でしょう?

それが、これからご紹介する2つの「覇道」です。覇道とは、「権謀を用いて国を治めること」(広辞苑)と説明されています。本項では、この一見邪道に見える、破壊的イノベーションを起こそうとする2つの道こそが、規模の小さい企業が生き残り成長する最短ルートなのだということをご説明します。

 破壊的イノベーターになるための7つのステップ(その1) - しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方(玉田 俊平太さんコラム - 第4回)

なかでも、クリステンセン教授が最も推奨するのが、何らかの「制約」によって製品やサービスが使われていない「無消費(ノンコンサンプション)の状況」を見いだし、それを解決するようなシンプルなソリューションを提供する「新市場型の破壊的イノベーション」を起こす道です。

図2 覇道その1

資料:執筆者作成

新市場型破壊の典型例が、キヤノンのミニコピアです。当時、コピー機と言えば、大企業のコピー室ぐらいにしか設置されておらず、コピーを取るためには、わざわざそこまで足を運ばなければなりませんでした。

メインテナンスも、定期的に感光ドラムをきれいにしたり、トナーの粉をこぼさないようにコピー機に補充したりするには、かなりの熟練が必要で素人には困難でした。

これに対し、キヤノンが発売したミニコピアは、感光ドラムとトナーを一体化した「カートリッジ」の採用によるメインテナンスの簡便さや、その低価格と省スペース性で、スモールオフィスや家庭に広く受け容れられました。

ミニコピアには、大企業向けのコピー機には当たり前のように搭載されていた、両面コピーやオートフィーダーといった機能はありませんでしたが、これまで自宅やスモールオフィスからはアクセスの制約があるため、「書類をコピーする」手段が身近に何もなかった(無消費だった)人たちに、使いやすいコピー機が自分たちの手の届く価格で現れたのですから、多くの人が諸手を挙げて買い求めたのも当然です。

現在ではコンピューティングの主流になっているパーソナル・コンピュータも、初期の顧客は、コンピュータをいくら触りたくても自宅ではアクセスの制約があったため不可能だった「無消費者」のホビイストたちでした。何もない状況と比べるからこそ、彼らは、オモチャのような性能のマイクロプロセッサでも、大喜びで受け容れたのです。

無消費の状況を見つけるには、顧客がかなえたい「ジョブ」があるにもかかわらず、「スキル」「アクセス」「時間」のうちいくつかが不足している状況を探すと良いでしょう。

があれば、それこそが「無消費の状況」であり、新市場型の破壊的イノベーションを産み出すチャンスなのです。

もし、どうしても無消費の状況が見付からず、新市場型破壊の機会が見いだせない場合は、ローエンド型破壊のチャンスを探すのが「覇道その2」です。

図3 覇道その2

資料:執筆者作成

現在供給されている製品やサービスの性能が、多くの消費者にとって十分以上に良い(満足過剰の)状況にあるとき、この戦略は特に有効です。

たとえば、性能競争が飽和気味だった日本の湯沸かしポット市場に、突如として現れたT-falの電気ケトルは、ローエンド型破壊の典型です。この電気ケトルの機能は、「電気で素早く少量のお湯を沸かす」これだけです。日本メーカーの高級湯沸かしポットのように、メール機能や省エネ機能、浄水機能や電動ポンプはおろか、保温機能すらついていません。

ですが、この製品の登場で我々が改めて気づかされたことは、1人か2人でお茶を飲んだりカップ麺を食べたりするぐらいであれば、沸かすお湯は少量で済むため、水から沸かしてもそんなに時間がかからないということです。すぐにお湯が沸くのであれば、あらかじめお湯を沸かしておいて、1日中電気代を払って保温し続ける必要はありません。

それに、大手電機メーカーのハイエンド湯沸かしポットが1万円以上したのに対し、単純な機能しか持たないこの電気ケトルは、3千円前後の安い値段で売られています。単純で低価格、多くの顧客にとって、機能はこれで「十分満足」で、デザインも洒落ています。

だから、湯沸かしポットに「過剰に満足させられていた」多くの顧客が、T-falの電気ケトルにシフトし、大ヒットしたのです。T-falの電気ケトルは、既存製品の性能が顧客の求める水準を超えてしまっていた(=「破壊的イノベーションの状況」にあった)湯沸かしポット市場に、「ローエンド型の破壊」を起こしたのです。

他にも、ヘアカットのQBハウス、ブックオフ、回転寿司、俺のフレンチなど、日本企業も多くのローエンド型破壊を起こしています。

あなたの身の回りの製品やサービスで、機能や性能、サービスが過剰になっているものはないでしょうか?もしあれば、それが新たなローエンド型の破壊的イノベーションにつながる可能性があるでしょう。

さらに勉強を深めたい方は、拙著『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』をお近くの書店等で手に取ってみてください。

⇒玉田 俊平太さんコラム「しゅんぺいた博士と学ぶ破壊的新規事業の起こし方」第3回を読みたい方はコチラ

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玉田 俊平太(たまだ しゅんぺいた)

関西学院大学 経営戦略研究科 研究科長、博士(学術)(東京大学)

1966年東京都生まれ。東京大学卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。ハーバード大学大学院にてマイケル・ポーター教授のゼミに所属、競争力と戦略との関係について研究するとともに、クレイトン・クリステンセン教授から破壊的イノベーションのマネジメントについて指導を受ける。筑波大学専任講師、経済産業研究所フェローを経て現職。著書に『日本のイノベーションのジレンマ 第2版 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(翔泳社)、『産学連携イノベーション―日本特許データによる実証分析』(関西学院大学出版会)など、監訳にロングセラーの『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)、『イノベーションへの解』(翔泳社)などがある。

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