マイクロソフトのモバイルOSの最新アップデートでは、これまで未完成だった部分が仕上げられている。しかし、それ以上のものではなさそうだ。
Windows Phoneがようやく成長を遂げつつある。
これまでのマイクロソフトのモバイル用オペレーティング・システムは、魅力的ではあるものの、色々と問題も多かった。Windows Phoneには、スマートフォンのオペレーティング・システムが行うべき機能は一通り備わっていた。例えば、通話やテキスト・メッセージ、人気アプリのダウンロード、音楽の再生、写真の撮影などだ。
しかしユーザー・エクスペリエンスはいまいちで、細かい点で粗が目立っていた。通知や設定は見つけづらかったし、人気のあるアプリケーションもほとんど利用できなかった。また、タイル型インターフェイスは変化に乏しく退屈で、キャリアやメーカーが違っても携帯の見栄えはほとんど同じだった。
そして、ユーザーを苛立たせる点がいくつもあった。ユーザーに喜ばれる細かいこだわり(アップルとグーグルはどちらもこれを提供している)の代わりに、Windows Phoneにはユーザーの不満に繋がる細かい問題がたくさんあったのだ。例えば、なぜ着信音や通知のボリュームを調節すると、音楽の再生ボリュームも一緒に変わってしまうのだろう?なぜ画面の自動ロック・オプションが追加されるのに、3度ものアップデートを待つ必要があったのだろう?なぜファイル・マネージャーが最初から用意されていなかったのだろう?
マイクロソフトはWindows Phone 8.1で、こういった急場しのぎの荒い部分をようやく磨き始めたようだ。
外観的には、Windows Phone 8.1で2つの点が大きく更新されている。カスタマイズ可能な背景やカラー・テーマ、そして新しい「Cortana(コルタナ)」パーソナル・アシスタントだ。
ついにホーム画面の背景がカスタマイズ可能となった。標準の黒い背景は廃止され、ユーザーはオペレーティング・システムのテーマを「Light(明るい)かDark(暗い)」から選べるようになる。また、携帯の全デザインに適用される21色のハイライト・カラーを選択することも可能だ。ホーム画面の背景に好きな写真を配置することもできる。写真はタイル型インターフェイスによって覆われてしまうが、上下にスクロールする際のモーション時にはユーザーの目に入ることになる。
Windows Phone 8.1にはホーム画面が2つある。標準のタイル型インターフェイスに加えて、設定画面が右側にある状態だ。ところで、上記の新しいカスタマイズ機能は好ましいが、あまり大した変更ではない。
対照的に、パーソナル・アシスタントのCortanaは、Windows Phoneにとって重大なアップデートだ。これは基本的に、Bing検索エンジンのモバイル拡張といったものだ。Cortanaにはインターネット検索だけでなく、携帯電話内で動作するローカルな機能も備わっている。
Cortanaの設定画面
優れた音声認識ソフトウェアであるCortanaのおかげで、自然言語検索は非常に優秀だ。マイクロソフト・リサーチは何年もの間、音声認識用のニューラルネットワークに取り組んでおり、ユーザーの言葉をローカルデバイス上とクラウド上の両方で認識するハイブリッド・モデルを作り上げた。これはマイクロソフトの得意分野であり、Cortanaにはそれが十分に活かされている。
Cortanaは(アップルのSiriほどではないが)、マイクロソフトのGoogle Nowへの対抗策だ。Google Nowはユーザーの検索履歴とデバイス上の行動(行き先を調べるなど)を通じて、ユーザーの嗜好、位置、行動パターンなどを学習する。その後、ユーザーが実際に検索しなくても、適切な情報を自動的に提供してくれるようになるのだ。
Cortanaは「Notebook」に情報を書き溜めていき、ユーザーの興味(親しくしている人々や、好きなトピック)を把握する。ユーザーは、リマインダーとカレンダーをCortanaに統合することもできる。
Cortana interestsと ホーム画面
マイクロソフトは、このパーソナル・アシスタントが実在する人間の助手のように振る舞うことを望んでおり、ユーザーにはCortanaの背後に「人」がいるかのように感じてほしいと思っている。このシステム全体が自己学習を行うため、マイクロソフトは多くの人々がそれを使用すれば、中核を成す知能はどんどん成長していくと約束している。
以下は、Windows Phone 8.1に導入された他の良い点だ。
・Action Center: マイクロソフトは、iOSとAndroidのように画面上部から引き出す通知バー(現在のメッセージを示し、設定への迅速なアクセスを可能にする)をWindows Phoneに設置した。・Word Flowキーボード: これは長い間Androidで人気だったSwypeのようなキーボード入力方法だ。これは特別新しい技術ではないが、Windows Phoneに追加されることは歓迎したい。・ボリューム・コントロール: 音楽などのメディア再生と、着信・通知とのボリューム・コントロールがようやく分離された。・ストレージ検出: Windows Phone 8.1は、SDカードのサポートを備えた新しいファイル管理システムを提供する。・デュアルSIM: 2つのSIMカードの使用をサポートする。地域によってキャリアを変更する旅行者や、仕事とプライベートで分けたい場合に便利だ。・バッテリー・セーバー: この機能はアプリごとのバッテリー管理とモニタリングを提供する。グーグルがAndroidでやっていることに近い。・Windows Store: 変更されたのは、ユーザーがアプリを購入すると、複数のマイクロソフトのデバイスでそれを共有することが可能になった点だ。さらに、アプリの自動アップデートがサポートされた。・Internet Explorer 11: ブラウザ自体に特筆すべき点はないが、 Windows Phone 8.1において多くの改良がある。ウェブサイトをホーム画面のライブ・タイルとしてタグ付けする機能、プライベート・ブラウジング・モード、パフォーマンス強化のためのサイトのプリ・レンダリング、Cortanaの統合などが含まれている。
ユーザーが自分のホーム画面をカスタマイズできるようになったとは言え、マイクロソフトには個々の携帯メーカーにオペレーティング・システムのスキン(独自のホーム画面)を作らせる計画はない。Androidのようにメーカーがカスタマイズした独自のインターフェースをデバイスに追加したり、ユーザーが自分の好きなランチャーをインストールしたりといったことはできないのだ。
これではユーザーに申し訳程度のカスタマイズを与えているだけで、開発者やメーカー(さらにはその先のユーザー)にオペレーティング・システムの鍵を渡しているとは全く言えない。マイクロソフトはまだWindows Phoneのユーザー・インターフェースとエクスペリエンスを、完全に自身でコントロールしようとしている。
Cortanaは、タッチせずに口頭による音声キーのみで起動させることができない。最近のAndroidデバイス(Moto XやNexus 5など)では、「OK Google」と話すことによってデバイスに触れずに、音声検索やデバイス・コマンドを起動することができるものもある。だがCortanaで検索を開始するには、検索ボタンかアプリ内の「マイク」ボタンを押す必要がある。
Windows Phoneのデフォルトの電子メール・アプリはOutlookだ。複数の受信トレイやサード・パーティーとの統合は可能だが、他の受信トレイで設定されたフィルタリングはWindows Phone電子メール・アプリには適用されない。ユーザーが他の電子メール・アカウントでメールをどのように整理・分類しているかに関係なく、すべての電子メールが一律に扱われる。
ノキアのデバイスだと、Windows Phoneには2種類の地図アプリがある。1つめは、新しい周辺情報統合を備えたMicrosoft Mapsだ。Microsoft Mapsは近所のショッピング情報や改善されたナビゲーション、Cortanaとの統合を特徴としている。2つめはNokia Here地図アプリだ。ほとんど同じものではあるが、こちらはナビゲーション・コントロールが優秀だ。他のモバイル用オペレーティング・システムでは、デフォルトで2種類の地図アプリが付属していたりはしない。
クイズ。どちらがNokia Hereで、どちらがMicrosoft Mapsだろう?
「Wi-Fi Sense(Wi-Fi検出)」はあまり分かりやすい機能ではなく、かなり危険かもしれない。マイクロソフトの説明によると、Wi-Fi Senseは「世界中の100万以上の無料WiFiスポットやあなたの友人のWiFiネットワークすべてに自動的に接続を試みる」という。
しかし、すべてのWi-Fiホットスポットが同じように作成されているとは限らず、中には悪質なものもあるかもしれない。また、あなたの友人は他人が自分の家のWi-Fiを使うことを望まないかもしれず、それがトラブルを生む場合もあるだろう。Windows Phone 8.1には、料金プランの節約やパフォーマンスの改善を行うために、色々なデータ最適化技術が組み込まれている。しかし、Wi-Fi Senseはあまり良い考えとは言えないだろう。
まずは、これをいいたい。「メトロ」インターフェースを継続するかどうかはマイクロソフトの自由だ。しかし、それによってWindows Phoneデバイス用の標準インターフェースが制限されてしまっているという現実的な問題が存在する。それはカスタマイズを制限し、アプリの構成を制限し、選択肢を制限してしまう。
そもそもタイル型インターフェイスだけで勝負するというやり方では、Windows Phoneの人気さえも制限してしまうだろう。それが好きな人(これは完全に好みの問題だ)でなければ、ノキアや他のメーカーが作ったどんなWindows Phoneでも好きにはならないだろう。
マイクロソフトはWindows Phone 8.1におけるカスタマイズでいくつかの改善を行ってはいるが、そんなものは見せかけに過ぎない。マイクロソフトはWindows 8の公開時に、(例えばデスクトップを隠してスタート・メニューを除去したように)1つの標準インターフェースを強要しても人々は喜ばないということを学んだはずではなかったのか。
もしマイクロソフトが、よりカスタマイズ可能なユーザー・インターフェースのために、タイル型のホーム画面やアプリのオプション画面/設定画面をスキップさせたとしたら、同社がiOSやAndroidと同等かそれ以上のエクスペリエンスをユーザーに提供するのに大きな効果があることだろう。
なぜなら、Windows Phone 8.1の機能の多くは、iOSとAndroidからの借用やコピーだからだ。Cortanaはある意味、Google Now(勝っている部分と劣っている部分がある)とSiriの模倣だ。Action Center中のプルダウン式の通知はAndroidのものとそっくりだし、バッテリー・セーバーとWord FlowもAndroidでおなじみの機能だ。アプリの自動更新も2013年の半ばあるいはもっと以前から、iOSとAndroidの両方に搭載されている。
だとしたらもうWindows Phoneにメトロを無理に詰め込むのはやめて、独自のスタート・メニューの一選択肢に留めておくのはどうだろうか?
Windows Phone 8.1は、マイクロソフトやデベロッパー、そして消費者がモバイル向けオペレーティング・システムに望むものに取り組んでいる。マイクロソフトの進化したデバイス戦略と、近く完了するノキアの買収とを結び付けて考えれば、同社の最新のモバイルOSは次なるステップための重要な基盤となるだろう。
マイクロソフトは、同社のWindows PhoneデバイスがiOSとAndroidの両方を超えられるという自信を見せている。そのためにマイクロソフトは、独特な見た目を維持しながらも、Windows Phone 8.1をライバルOS達に引けを取らないところまでなんとか育て上げたのだ。マイクロソフトはモバイル世界に参戦するのが遅れてしまった。ここまでたどり着くために行ってきたあらゆる努力を、今後はユーザーの獲得に向けなくてはならないだろう。
Windows Phone 8.1の開発者向けプレビューはすでに利用可能だ。ダウンロード方法は開発者用サイトに記載されている。
※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら。
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